年末年始は決まってヨメの実家で過ごすわが家だが、今年は仕事の都合上、ヨメと少年だけが帰省し、私はひとりぼっちで過ごす事が決定していた。
寝室からリビングに布団を引きずり出して、食事とトイレ以外は一切出ずに、まるで胎内回帰をしたかのような暖かい布団の中で4日間生活するのも悪くない。
出来る事ならば、食事とトイレもここで済ませてしまいたい所だが、それはヒトとしての尊厳とヨメが許さない。
大晦日に紅白歌合戦や絶対に笑わない○○を見る文化のない私は、年越しは布団の一部と化して、撮りだめておいた西村キャンプ場やハピキャンでも見ようと思っていた矢先、どこからか
家でキャンプ番組を見るくらいなら、キャンプへ行ってはいかがですか?
といったお告げが聞こえたような気がした。
と思ったのは気のせいで、よく考えたらやっぱり聞こえてなかったけど、聞こえた事にしてヨメにいきさつを説明した所、晴れて年越しキャンプのお許しを得たのであった。
香六ダムキャンプ場
今回選んだ場所は以前から気になっていた香六ダム公園キャンプ場だ。
1張り¥1,000という破格の料金にも関わらず、区画分けされたオートサイトでサイトによっては電源まで使用する事ができる。(別途¥500必要)
管理棟はフィッシングレイクたかみやという釣り堀とキャンプ場が一緒になっていて、感じのよいスタッフさんばかりでとても気持ちがよい。
今回は私と同じく、家族に見放されたかわいそうな友人達も参加してくれる事になり、オッサン3人の加齢臭漂う年越しパーティーが開催される事になった。
冬キャンプの洗礼
受付を済ませてサイトについた私達は呆然と立ち尽くした。
初の年越しキャンプを過ごすハズの夢と希望に満ち溢れた私たちのサイトは、先日からの悪天候により、泥んこサイトへと変わり果てており、夢と希望を失った我々に残されたのは加齢臭だけとなった。
張り終えたテントに泥がつくのであれば諦めもつくが、泥の中にきれいなテントを放り込むのはいささか勇気がいるものである。
しかしこの泥んこサイトにテントを設営しなければ何も始まらないので、意を決してグランドシートを泥の中へ放り込んだ。
べちゃり。
晩御飯
グランドシートは犠牲にしながらも、なんとか被害を最小限に抑えて設営する事ができたのだが、泥んこ遊びにかなりの時間を費やしててしまった為、さっそく晩御飯の準備を始めた。
広島における冬キャンプの醍醐味と言えば牡蠣である。
殻付きの牡蠣を網で焼き、燻製器の中に小粒の牡蠣を並べ、既に今日の風呂を諦めたオジサン達は勢いよくビールを開けた。
牡蠣をつまみながら晩御飯に定番のレモン鍋を作り、冷えた体を温める。
ソロキャンパーの冬は鍋率が軒並み90%を超えるといった都市伝説を信じながら、他人のインスタ鍋画像を見ながら心を落ち着かせた。
やっぱみんな鍋じゃん!
焚火
あっという間に夜には更け、焚き火を囲みながらふと周りを見渡すと、他のサイトのツールームや大型のシェルターの中からは暖かな灯りと楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
深々と降り積もる雪の中、タープも張らずに氷点下でビールを飲んでいるような気が狂ったグループは我々の他にいない。
まるで、アリの家を恨めしそうに横目に見ながらブルブルと震えるキリギリスにも似た負の感情を抱きつつも楽しい夜は更けていった。
翌朝
夜中も雪は降り続き、吹きつける強風とタープを滑り落ちる雪の音で浅い眠りをくりかえしながら、思いのほか早く目覚めた私はテントのファスナーを静かに開けた。
目の前には一面の雪景色が広がっている。
身を切られるような寒さの中、まだ誰も足を踏み入れていない雪の中をザクザクと歩を進めてダムの周りを暫く散歩。
普段では味わえない非日常の雪景色を堪能してテントに戻ると、周りのキャンパーさん達も少しづつ起き始めていた。
大晦日の朝ご飯はホットサンドに昨日の暴飲暴食をチャラにする為、カット野菜を添えた。(チャラにはならない)
日中も雪は降ったりやんだりを繰り返し、時折強烈な風が襲ってくる。
雪が強くなる度にテントの中へ避難し、止んだら戻ってくるを繰り返しながら、思い思いの時間を過ごして昼ごはんに牡蠣のたきこみご飯を作った後は、冷えきった体を温める為に、みんなで温泉に向かった。
行った先はキャンプ場から車で5分のたかみや湯の森。
この他にも車で15分走れば神楽門前湯治村という懐かしい街並みにお食事処や茶店等がある大きめの温泉施設もあるのだが、今回は二日分の加齢臭を洗い流すのが目的なので近場のこちらを選択。
露天風呂で身も心も加齢臭もキレイに洗い流した所で、本日は大晦日の家族サービスをしなければならない為、1人は帰宅する事になった。
後ろ髪をひかれながら寂しそうに帰宅する彼を見ながら、ちょとだけ家族と大晦日を過ごせる彼が羨ましくもあった。
大晦日
大晦日のメインデッシュはやはり肉。
年末にゆるゆるになった財布のヒモを引きちぎって買った高級肉と昨日の残りの鍋というコントラスト差の激しい夕食である。(急に覚えたてのカメラ用語をぶっこんでみる)
晩御飯を食べた後は雲の隙間から時々除く星空撮影に没頭。
降ったり止んだりする不安定な天気の中、頭上にはオリオン座と冬の大三角形が輝いていた。
大晦日の夜は昨日とはうって変わり、静寂が訪れ、雪や風もなく、懸念していた年越しに騒ぐグループもいない。
テントの中一人で年越し蕎麦をすすり、静かにその時を迎えながら寝袋に潜り込んだ。
迎春
まだ薄暗い中、周りの声に気づいて目が覚めた。
テントの外からは何やら
『出る出る!もう少し!』
『出そう出そう!』
などと物騒な声が聞こえる。
なんだろう。
かなりの寒さのせいで尿意をもよおしているのだろうか、それとも牡蠣にでもあたっておなかを壊し、トイレまで間に合いそうにないのだろうか。
どちらにせよ、そんな物を私のテントのすぐ横で出されても困りものである。
これはいちキャンパーとして、マナー意識向上、フィールド保護の為に、彼らに一言注意してあげなければならない。
正義感にかられた私は意を決して勢いよくテントのファスナーを開けた。
ちょっと、そんな所で出されても困るん・・・
初日の出だ!!
どうやら彼らが先ほどから『出そう出そう』と言っていたのはおひさまの事だったようだ。
私のテントのすぐ横は何やら撮影スポットになっていたようで、カメラの三脚を構えた方がスタンバっている。
私も慌ててカメラを取り出して、構図を決める間もなくシャッターを切る。
見知らぬ彼らのおかげで、空を覆う巨大な雲の隙間に少しだけ顔をのぞかせた初日の出をなんとかファインダーに収める事ができた。
その後、彼らは足早にトイレへと向かった為、『出そう出そう!』と言っていたのもあながち間違いではなかったのかもしれない。
朝食
朝食は炭火でもちを焼き、残りの牡蠣をお吸い物に入れて正月らしい朝ご飯を食べる。
永谷園の偉大さに舌鼓を打ちながら、更にもちを二つ追加し、最高のお正月を迎える事ができたのであった。
撤収
今回のお話はここまでになります。
というのも、どろどろになったテントとギアの撤収作業に追われて、これといったドラマチックな事も起こらず、写真を撮る余裕もほとんどありませんでした。
とりあえず大きなゴミ袋にテント類を詰め込んで、家に帰ってから風呂で半日近くかけてテントを洗うの刑をくらったので、暫くはどろんこキャンプは控えようかなと思いましたが、思い返せば去年の年末雪中キャンプでも同じ事を思った気がするので、やはり今年の年末もキャンプは行きそうですね。
それでは皆さん、本年も宜しくお願いします。
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