パチッ!
大きく爆ぜた焚火の音で私は目を覚ました。
久しぶりの休暇でキャンプに来ていた私はどうやら焚火の前でうたた寝をしていたようだ。
『懐かしい夢を見たな・・』
そう呟きながら、消えかけた焚火に薪を一本放り込んだ。
あれからコージとは学校で再開し、いわゆる親友と呼べる仲になった。
毎日のように学校が終わってから暗くなるまで、ずっと一緒に遊び回り、彼と過ごした少年時代の思い出は忘れられない物ばかりだ。
しかし、お互い別々の中学へ進学した事もあり、その後次第に疎遠になって行き、自然と会う事はなくなった。
最後に会ったのは、たしか地元の駅の改札ですれ違った時だった。
あれから30年。
それ以来彼とは会っていないが、元気でやっているだろうか。
もし、結婚して子供がいれば、丁度あの頃の私達と同じ年頃かもしれない。
彼の事だ。今でもどこかで腰にナイフを提げて、キャンプを楽しんでいる事だろう。
その時、テントの中から
『パパー!いっしょにトランプしようよー!』
と息子の叫ぶ声が聞こえた。
30年という年月は長く、私を取り巻く周りの環境も大きく変わっていた。
その長い年月の中で考えればほんの一瞬ではあるが、多感な時期を共に過ごした彼とのかけがえのない思い出だけはいつまでも色あせる事はないだろう。
古い木製テーブルの上に置いてある、持ち手の文字が消えかけてほとんど見えなくなっているナイフをじっと見つめた。
『パパー!?はーやーくーっっ!』
もう一度息子に呼ばれた私は熾火になり、燻っていた焚火を消した。
『はいはい、今いくよー!』
そう言いながら腰を上げた私はゆっくりとテントへ向かった。
『ボクの夏休み』はまだ終わらない。
-終-